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お釈迦様の教え05

―ひな鳥のいのち― 

むかし、お釈迦さまは、舎衛国の祇園精舎でこのようなお話をされました。

それは阿修羅と帝釈とが戦争をしていた時の話である。

ある時、帝釈の軍は阿修羅軍のために総崩れとなり、車に乗って天宮を目差してどんどんと退却した。ちょうど帝釈軍の車が須弥山の下の林の小径に差しかかると、道に金翅鳥の巣があって多くの金翅鳥の雛鳥がピヨピヨと、かわいらしい口をあけて鳴いている。

このまま軍を進めれば、雛鳥は車の下敷とならねばならぬ。そうかと言って、後へ戻れば、阿修羅軍のために天界の軍は全滅しなければならぬ。とっさの間に帝釈は決心した。阿修羅軍のために殺されるとも、金翅鳥のひなは殺すまいと。帝釈は御者に向かって、
『車をかえせ、雛を殺すな。』
御者は驚いて帝釈に向かい、
『阿修羅の軍勢は背後に迫っています。もし車をかえせばわが軍は敵のために全滅します。』
しかし帝釈は決然と命令した。
『阿修羅軍のために殺されてもいい。無益の殺生をしてはならぬ。』
御者は仕方なく、帝釈の命令のごとく車をかえして、阿修羅軍に向かって馬を進めた。
阿修羅軍の大将はこれを見て、大いに驚き、かならずなにか敵に作戦があると思い込み、追撃は退却とかわり、一目散に阿修羅の本営に向かって逃げはじめ た。今までの退却は、追撃とかわり、帝釈の軍は、勢いをもりかえし阿修羅の軍を追い詰めて大勝利を得た。
これというのも雛鳥の命を助けたのが、偶然にも大勝の原因をなしたのである。

*身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあるというが、この場合は幼き雛の生命を助ける心が、雛の心に映って、雛がその恩にむくいるために、敵に錯覚を与えたのであろうか。いずれにしても、殺生をせずというよいむくいの、ありがたい話である。

《仏教説話集より》

※ 天宮(テング) …天人の宮殿。天界も同意語。
※ 帝釈天(タイシャクテン)…須弥山の頂上、トウ(りっしんべんに刀)利天の善見城に住む神。

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